【辻語り】「おい、信じられるか? 俺が国会議員だったんだぜ」

「おい、信じられるか? 俺が国会議員だったんだぜ」

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“酒豪の大学生”と、飲みながら語る
目の前に彼はいない
かといってオンラインでもない
36年前に逝った親友に献杯している

2月10日
36年前のこの日、親友が雪崩でこの世を去った
北海道オロフレ山

入学の春に、札幌の大学で彼と出逢った
私は福井出身、彼は秋田出身
同じ日本海側出身ということで、田舎者同志なんとなくウマがあったのかもしれない
大学まで来て、やめとけばいいのに2人とも体育会
私はハンドボール部、彼は山岳部
自然が好きで登山によく行っていた私は、彼のことを少しうらやましくも思っていた
裏日本出身の宿命か、2人とも酒はめっぽう強かった
彼は強かったというか、豪快だったというか、もう飲み方が異常だった
楽しそうに酒をあおる姿が、今でもよみがえる

冬、後期試験の最終盤だったと記憶している
夕方の学生食堂で、2人は顔を合わせる
私も部活の遠征などで授業に出ていなかった方だが、彼はそれに輪をかけて授業に出ていない
そりゃそうだ、私は球を、彼は山を追い続けていたのだから
「明日から山に行くんだ」
彼は秋田訛りの声で私に話しかけてくる
頬を赤らめたいつもの笑顔だ
「試験は? ほとんど出てないやろ?」
人の心配などしている場合でもないのだが、さすがにその時は彼のことを心配する
「うん? ま、なんとかなるさ」
あっけらかんと言ってのける彼に「こいつ留年するつもりだな」と確信
「そうか。まあ、気をつけろよ」
それが彼との最後の会話となった

今夜、日本酒を飲みながら、彼と続きを語っている

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おい信じられるか? あの会話からもう36年
俺が国会議員だぜ
1年3ヶ月という短い任期で、2日前に落選したけどな

この選挙どう想う?
あの頃は、正直なところ何にも政治なんて考えてなかったよなあ
でも今は、若者の動向がカギを握る時代になってるわ
想像もできなかったネットの中で様々なことが動いていく
そして信じがたい勢力を持つ与党の誕生
あの時代にこうなっていたら、いくら考えてない2人だとしても「やっぱおかしいやろ! あかんやろ!」と飲んだくれていたかもしれないな、やっぱり

お前の死を知ったのは、試験後に帰省した福井だった
今の様にスマホもネットもない中で、よく俺に知らせが届いたもんだ
何がなんだかわからずに飛行機で札幌に飛んで帰ったなあ
情報が錯綜する中、仲間二人が代表して秋田の葬式に飛んだ
みんなでその飛行機代をカンパしたっけ
俺も行きたかった
お前の最期の顔を見たかったんだよなあ

それ以来20数年、秋田に行けばお前のお父さんが迎えてくれた
でも、そのお父さんもお前を追いかけて逝ってしまったな
今ごろ親子でどんな会話をしているのか
親友が死んだのは初めてだった
あの冬の衝撃を、いまだに忘れる事ができない

あの頃、よく寮歌を歌ったよな
飲んだくれた後に、肩を組んで街を歩きながら歌った
歌ったというかわめきちらして
そんな若者を育ててくれた札幌市民にはほんと感謝しかない
この歌、覚えているか?
よく一緒に歌ったぜ

♪読み飲み語り夜は明け
 熱き情に年は経り
 ああ青春の祭日も
 はや七十を数うなり
 友よ再び楡影に
 三十年後に集わなん ♪
※楡=エルム

あれから30年後に再会すると誓ったのに叶わなかったな
でも今から30年後には、そっちで再会できるかもよ

最後に校歌も歌うわ。
最後のフレーズは「友たれ永く友たれ」
いつまでも友でいよう、世がどれだけ変わろうとも
お前が好きだった日本酒で、今日は飲もう
♪友たれ永く友たれ♪

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彼は秋田県大曲(今は大仙市)に眠っている
昨年、実に数年ぶりに墓参りに行けた
墓地は完全に雪に埋もれていた。
執念で場所を探し当て、墓石を掘り起こして献杯
母校の寮歌「都ぞ弥生」を歌った(動画)

今頃は豪雪の下で寒かろうな
彼が短い人生を濃く生き抜いた秋田の地に、また身を置きたい
いつものように、墓の前で下手なギターを弾いて歌いたい
この、きな臭い日本社会の行末を語り合いたい
36年前を思い出しながら
もちろん、二人で酒盛りしながら

2026年2月10日   つじ英之

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